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広島高等裁判所 昭和44年(け)2号 決定

被告人 檜本勇蔵

決  定

(本籍、住居、被告人氏名等略)

右の者に対する暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件について、昭和四四年二月二六日広島高等裁判所松江支部がなした控訴棄却決定に対し、被告人から適法な異議の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原決定を取り消す。

理由

本件異議申立の要旨は、原決定は被告人に対する暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件について、控訴趣意書提出期間内に控訴趣意書を提出しなかつたことを理由として控訴を棄却したが、被告人は弁護人選任照会書は妻から見せられたのでこれに対する回答書を提出しているが、控訴趣意書提出通知書は見なかつたのでこれを提出しなかつたものである。被告人は仕事に追われていたため弁護人選任の手続をなさなかつたもので、右被告事件は必要的弁護事件であるから、法規に暗い被告人には控訴趣意書を提出する方法が判らないので、弁護人選任手続をなしたのち控訴趣意書提出日を指定すべきものである。従つて右被告事件についての控訴を棄却した原決定は失当であるから、これを取り消して被告人に弁護人を選任する機会を与えて頂きたい、というのである。

よつて案ずるに、記録に徴すれば、原裁判所は昭和四四年一月二二日控訴申立人である被告人に対し控訴趣意書差出最終日を同年二月二二日に指定する旨の通知書を弁護人選任に関する通知書と共に発送し、これらは同年一月二五日被告人の制限住居地において、同居人でありかつ事理を弁識するに足る知能を有する被告人の母檜本マツヨに交付されたこと、当時被告人は仕事のため松江市に赴いていたので右通知書が送達されたことを知らなかつたものであることが認められる。右のとおり被告人に対し控訴趣意書提出通知書が適法に送達されている以上、右のような事情によつて被告人がこれを知らなかつたとしても、かかる事由は右通知書の送達を無効とすべき事由には該らず、また控訴裁判所は、原審裁判所から訴訟記録の送付を受けたのち速かに控訴趣意書差出最終日を指定して控訴申立人に通知すべきものであるから、必要的弁護事件でも先ず弁護人が選任されたのちでなければ控訴趣意書差出最終日を指定することができないものではない。しかしながら、刑事訴訟規則第一七八条第三項の規定は控訴審にも準用されるものであり(最高裁昭和三三年五月九日決定参照)、記録によれば昭和四四年一月二九日被告人から私選弁護人を依頼する旨の回答書が提出されてはいるが、控訴趣意書差出最終日が迫つても、被告人から弁護人選任届も控訴趣意書も提出されなかつたので、原裁判所としては、右被告事件は必要的弁護事件であるから、控訴趣意書を作成提出するに必要な余裕を置いて国選弁護人を選任して控訴趣意書を提出せしめるようにしなければならないにもかかわらず、かかる措置を講ずることなく、控訴趣意書差出最終日までに被告人から控訴趣意書が提出されなかつたことを理由に右被告事件についての控訴を棄却した原裁判所の措置は、刑事訴訟規則第一七八条第三項の規定に違反した違法のものというべく、原決定はこの点において取り消しを免れない。

よつて刑事訴訟法第三八六条第二項、第四二六条第二項により原決定を取り消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 竹島義郎 丸山明 岡田勝一郎)

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